つくりものがたりにっき

創作文章を載せているブログです

年賀状

遠くに嫁に行く事になった。

恋愛の末の結婚でのことなので、そこに後悔はない。後悔はないけれども、不安はあった。夫となるべき彼以外には、誰も知る人がいない土地なのだ。それは、彼以外に頼れる人がいないことを意味する。本当に心細かった。

だから、実家を離れるとき彼女に、すがるようにこう言った。「ずっと友達でいてね」と。

それから30年が経った。その間、彼女とは一度も会うことはなかった。彼女自身も結婚で地元を遠く離れることになってしまったし、そのお式が唯一のチャンスだったように思うけど私はちょうど臨月で出席を見合わせたのだ。

その30年間、苦労は人並みにしたと思う。夫は頼れると言っても仕事で忙しく、常に私や家族を優先にすることなど出来はしない。だから子育ては殆ど一人でやったようなものだ。

何度この人生を投げ出したくなっただろう?

けれども、毎年彼女から届く年賀状。

淡々と手短に、去年一年間あったことを語る文章。その文章の先に、彼女自身も頑張っている姿がありありと浮かんだ。その姿に一体どれだけ励まされたことか。

だから私も同じ気持を込めて、毎年年賀状を書いた。

愚痴などは書かない。彼女も書いてこない。伝わっていることを信じて、一年のまとめを手短に書く。

次は31通目。