つくりものがたりにっき

創作文章を載せているブログです

右側の言葉

「?」
 イヤホンをして音楽をかけた時、すぐに違和感に気付いた。右側から音が出てこない。まいった、断線か。
 しかし断線なら、コードの位置を調整することで音が聞こえるかもしれない。俺は右側のイヤホンのコードを触って、あちこち動かし始めた。ザッ、ザッ、と一瞬音がする箇所がある。うまくそこでコードを固定できないかと思ってコードを動かす。だいたいどこら辺で音がするようになっているのか、把握できてきた。多分、この辺りだ。幸い電車の椅子に座っているし、頭を動かさなければこの位置でコードを固定できそうだ。
 そう思った時、もう一つ違和感に気付いた。
「あなたの……寂しさが……」
 イヤホンの右側と左側で、聞こえてくるものが違う。左側ではいつも聞いている音楽が鳴っているのに、右側からは断片的な言葉しか聞こえてこない。というか、断片的にしか認識したくない。これはホラーだ。俺は怖くなって、右耳のイヤホンを慌てて外した。
「あなたの……寂しさが……」
 俺はゾッとした。イヤホンを外したのに、右側の言葉はまだ聞こえてくる。俺は立ち上がり、逃げるため電車を降りた。だが、声は追いかけてくるのだ。だんだんはっきり聞こえてくる。はっきり認識してしまう。声は、こう言っていた。
「あなたの命があれば、私の寂しさがまぎれるの」
 一体なんなんだ、なんなんだよ、これ!
 俺は逃げるため闇雲にホームを走った。しかし、慌てすぎてホームの端から足を外してしまう。そこに、電車がやってきた。
 そうか、幽霊ってのはこうして人を呼ぶのか。そう思いながら、俺の命は散った。あいつのところに行くのは嫌だな、最後に思ったのはそんなことだった。