つくりものがたりにっき

創作文章を載せているブログです

海を去る日

 この船は宝の船なのだ、と娘には言い聞かせて育てた。私は船乗りで、家族である娘も常に一緒に船に乗せている。岡へ戻ることはごくわずかで、海の上で暮らすことが人生そのものであると言ってもいい。
 ある日娘に、この小さな船のどこが宝の船なのか?と訊かれた。私はこの質問が来るのを待っていた。だから用意していた答えを告げた。
「この船はお父さんが作ったんだ。そして、この船のあちこちにお母さんの手がかりを散りばめておいたからだよ」
 それを聞いた翌日から娘は、船の中をいろいろ探して回るようになった。あの子は母親の顔を覚えていないはずだ。それでも、やはり本能的に求めるのが母親というものなのだろう。
 そして娘は気付いたようだ。この船のあちこちに木材とは異なる白い材質が使われていることに。それら全てを集めると、人ひとり分の骨になると気づくのはいつになるだろう?
 娘がそれに気づく日が、私が海を去る日なのだ。