つくりものがたりにっき

創作文章を載せているブログです

雪どけを待つ本

 人生に影響を与えた一冊。僕の場合、それはここにある白紙の本だ。かつて、この本には無数の物語が書かれていた。それらは全て、僕が綴ったものだった。

 僕には昔から夢想癖があった。それを白紙の本にしたため、後から電車の中で読み返すのだ。電車の中の周りの人たちは、僕が普通に文庫本を読んでいるように見えただろう。でも実際は、自分で書いた物語を自分で読んでいる。そのギャップが好きだった。

 けれどもある日からぱったりと物語が書けなくなった。何がきっかけだったのかわからないが、何故かはなんとなくわかった。僕は僕が嫌いになったのだ。

 そして本に書いてあった物語を全て消してしまった。

 それから、白紙に戻った本を毎日見つめている。けれども、何も浮かばない。思い出すのは、自分の世界に浸りながら人々の無関心にさらされている、あのなんとも言えない時間だけだ。

 もう何も書かれていないこの本だけれど、この本以上に僕の人生に影響を与える一冊は現れないだろう。この本は一生手元に置いておくつもりだ。

 願わくば、またこの本に物語を綴れる日が来ることを。

 

###〈今週のお題〉人生に影響を与えた1冊