僕が死ぬ瞬間
僕はアフリカ美術が好きだ。なんだか、『生』の生々しさが溢れているのがいい。今日も僕はアフリカの美術品を片隅に置いてある雑貨屋に立ち寄っていた。
いつもはただ眺めるだけだけど、今日はふと目についた品があった。笑っているように見える木彫りの像で、ちっともリアルな人間には似てないはずなのに、ものすごく生きている人間に見えた。
「お客さん、そいつが気になるかね?」
その像に見入っていたら、店員らしきおじいさんにそう声をかけられた。
「はい、なんだか目が離せなくて……」
そう答える僕に、おじいさんは説明をしてくれた。
「そいつは時の番人の像、と呼ばれている像でね。持ち主を好きな時代に連れて行ってくれるとか何とかという曰くがついとる」
おじいさんは、髭をさすりながらそんなことを言っていた。
「好きな時代へ……」
「そう。そんなことができるというのだから、きっと神様なんじゃろうな」
おじいさんの説明を間に受けたわけじゃない。でも、その曰くが気に入って、僕はその像を買ってしまった。
そうして僕は今、こうして自分の部屋で像を眺めている。もし好きな時代に行けるなら、僕には行きたいところがある。もしあの話が本当だったら……。そんなふうに想いを馳せていた時、像がまばたきをした。
「!?」
今一瞬見た光景を確認する暇もなく、像はみるみる変身をして人間の姿になった。そしてそいつは言った。
「私は時の番人だ。お前を一度だけ、好きな時代に連れて行ってやろう」
僕は驚いた。しかし、不思議と恐怖は感じなかった。だからさっきまで考えていたことが自然と口をついて出た。
「僕が死ぬ瞬間に行ってみたい」
そう、これが僕の行ってみたい時代だ。僕はどんな人たちに看取られて、どのように死ぬのか。多分僕は、人一倍生きるのが怖いのだ。だから、『生』に溢れたモノに魅せられるし、自分の死が知りたい。
「わかった。目を閉じるがよい」
時の番人の言うがまま、僕は目を閉じた。そして目を閉じていてもわかるほどの光に包まれ、不思議な浮遊感を味わった。そして光が消え、重力が戻ってきて、僕は目を開けた。
そこは、僕の部屋だった。さっきまでいたアパートで、目の前には時の番人がいる。これはどういうことだろう?
時の番人は笑っていた。その笑みはとても嫌な笑みで、僕は全てが罠だったのだと悟った。
今が、僕が死ぬ瞬間なのだ。
###今週のお題「行ってみたい時代」